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忘却がもたらす惊くべき効果 ―軽微な忘却は、运动指令を最适化することを理论的に証明―研究成果

忘却がもたらす惊くべき効果
―軽微な忘却は、运动指令を最适化することを理论的に証明―

平成24年6月29日

东京大学大学院教育学研究科

1.発表者
平島 雅也(东京大学大学院教育学研究科?助教)
野崎 大地(东京大学大学院教育学研究科?教授)

2.発表のポイント
◆どのような成果を出したのか
运动学习プロセスにおける「軽微な忘却」には、运动指令を最适化するという予想外の効果があることを理论的に証明しました。

◆新规性(何が新しいのか)
脳における最适化计算の実态は谜に包まれていましたが、脳に生得的に备わっている忘却という机能がその役割を担っている可能性を初めて示しました。

◆社会的意义/将来の展望
适度な休息(忘却)を取り入れた効率的な练习スケジュールの开発など、スポーツやリハビリテーション分野への応用につながることが期待されます。

3.発表概要
忘却というと、記憶を阻害するものとして悪いイメージを持つ人が多いかもしれません。しかし、今回、东京大学大学院教育学研究科 平島雅也助教と野崎大地教授は、運動を学習する場合、その記憶を「少しずつ忘れる」ことは、むしろ、運動制御の指令を最適化する効果があることを初めて理論的に証明しました。また、個々の記憶素子において軽微な忘却が起こることを仮定してニューラルネットワークモデルを構築すると、霊長類の一次運動野神経細胞で観察されるのとほぼ同じ神経活動パターンを再現できることを明らかにしました。これらの結果は、脳の運動学習プロセスにおける軽微な忘却が、運動指令の最適化に貢献している可能性を示唆しています。

本研究成果は、脳における最适化计算の実态が谜に包まれている中、脳に生得的に备わっている忘却という机能が最适化に贡献しうることを示し、生物学的妥当性のある仮説を提唱したという点において学术的に大きな意义を有しています。また、今后、忘却の有効性に関する理解がより深まることで、适度な休息(忘却)を取り入れた効率的な练习スケジュールの开発など、スポーツやリハビリテーション分野への応用につながることも期待されます。

4.発表内容
<研究の背景>
我々が普段何気なく行っている歩行や到达动作(注1)は、制御工学の観点からみると非常に洗练されたものです。筋活动パターンを详しく调べた研究によれば、目的の动作を実现しうる筋活动パターンは无数に存在するにもかかわらず、その中で最も効率の良いパターンが选択されていると报告されています。无数にある解の中から、一つの解を选ばなくてはならない问题(冗长性问题)は、非常に多くの筋、関节、神経细胞が関わる身体运动制御を理解する上で重要な问题です。これまで、脳はある基準に照らし合わせて最适な解を选び出すことによって、この问题を解决していると考えられてきました。しかしながら、制御工学から提唱された评価基準は数学的に非常に复雑なもので、実际の脳でその计算がどのように行われているのかは明らかではありません。运动制御问题における评価基準は、「筋活动の二乗和」あるいは「ニューロン活动の二乗和」であると言われています。しかし、脳がこのような复雑な计算を行っているという神経科学的証拠はいまだ见つかっておらず、最适化计算の実态は谜に包まれています。

<研究の内容>
本研究では、発想の転换を行い、工学的な最适化计算と同等のことを、复雑な评価基準を计算することなしに、脳に生得的に备わっている机能だけで行うことができるのではないかと考えました。そこで注目したのが、「忘却」です。忘却は、古くよりニューラルネットワーク(注2)の分野において、ネットワーク性能を高める効果があることが知られています。本研究では、忘却が运动制御系において有効に机能し得るかどうかを理论的に调べました。その结果、1)极めて多くのニューロンが运动课题に参画すること、2)误差情报に基づいた运动学习が长期间行われること、3)忘却率が学习率に比べて极めて小さいこと、などの条件が揃えば、ニューラルネットワークは必ず最适な状态に达し、最も効率のよい神経活动パターンを出力できるようになることを明らかにしました(図1顿)。一方、忘却が全くない场合には、学习に伴って运动误差は减少するものの(図1础)、神経活动レベルは减少せず、最适な状态に达する前に学习が终了してしまうこと(図1颁)を明らかにしました。また、忘却が大きすぎる场合には、必要以上に神経活动レベルが低下して运动课题の遂行ができなくなってしまうことを明らかにしました。つまり、軽微な忘却を有する时のみ、ネットワークは最适な状态に达することができるのです。

もし実际の脳において忘却が机能しているのだとすれば、忘却を有したニューラルネットワークモデルは、実际の脳活动パターンを予测できるはずです。そこで、一次运动野および筋骨格系の解剖学的知见を用いてニューラルネットワークモデルを构筑し、軽微な忘却条件下において长期间の运动学习を行わせました。その结果、様々な运动课题において、霊长类の一次运动野で観察されるのとほぼ同じ神経活动パターンを再现できることがわかりました(図2)。

神経生理学の分野では、到达动作中の一次运动野ニューロン群の至适方位(注3)の分布には偏りがあることが知られており、その発生机序に注目が集まっています。2次元到达动作中(図2叠)および3次元到达动作中(図2颁)の至适方位の偏りがともに、忘却による最适化によって生じうるという统一的な理论で説明した点も本研究の大きな成果の一つとなっています。

<研究の意义と今后の展望>
本研究の结果は、脳の运动学习プロセスにおける軽微な忘却の存在が、运动指令の最适化に贡献している可能性を初めて示したものです。本研究は数式とコンピュータシミュレーションを用いた理论的研究であるため、実际のところ本当にこの軽微な忘却が最适化に贡献しているのかどうかは定かではありません。今后、霊长类をもちいた电気生理学的実験において、多数のニューロン活动を长期的に调べることによって、忘却の有効性を実証していく必要性が残されています。しかし、筋の発挥力や神経细胞の活动レベルの二乗和という复雑な量を计算せずに、脳に生得的に备わった机能だけで最适化计算と同等のことが実现できることを示した意义は非常に大きいと考えられます。

极限のパフォーマンスを目指すスポーツ选手や音楽家では、パフォーマンス低下を恐れるがあまり、过度の练习を行い、心身に様々な问题を来たすケースも少なくありません。しかし、本研究で示した通り、軽微な忘却であれば、それはむしろ効率のよい动作に导いてくれる可能性もあるのです。今后、忘却の有効性に関する理解がより深まることで、适度な休息を含んだ効果的な练习スケジューリングの开発などにつながることが期待されます。

5.発表雑誌
雑誌名:PLoS Computational Biology(2012年6月28日オンライン版)
論文タイトル:Learning with slight forgetting optimizes sensorimotor transformation in redundant motor systems
著者:Masaya Hirashima, Daichi Nozaki
リンク先:

6.问い合わせ先
平島雅也(东京大学大学院教育学研究科?助教)
野崎大地(东京大学大学院教育学研究科?教授)

7.用语解説
注1) 到達動作: 目標物に向かって手を伸ばす動作のこと。例として、机の上のコーヒーカップに手を伸ばす動作が挙げられる。
注2) ニューラルネットワーク: 脳内の神経細胞同士の結合および情報のやりとりをコンピュータ上で模式的に表現したモデルのこと。
注3) 至適方位: 運動時に活動を示すニューロンは、あらゆる運動方向で同じ活動を示すわけではなく、方向選択性を持っている場合が多い。個々のニューロンで最も活動が高くなる運動方向を、そのニューロンの至適方位(PD, preferred direction)という。

8.引用文献
Herter TM, Kurtzer I, Cabel DW, Haunts KA, Scott SH (2007) Characterization of torque-related activity in primary motor cortex during a multijoint postural task. J Neurophysiol 97: 2887-2899.

Scott SH, Gribble PL, Graham KM, Cabel DW (2001) Dissociation between hand motion and population vectors from neural activity in motor cortex. Nature 413: 161-165.

Naselaris T, Merchant H, Amirikian B, Georgopoulos AP (2006) Large-scale organization of preferred directions in the motor cortex. I. Motor cortical hyperacuity for forward reaching. J Neurophysiol 96: 3231-3236.

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