热化学电池で见据えるグリーンな化学 兴味を突き詰めて、世の中のためになる研究を


热化学电池开発のための実験に取り组む理学系研究科の山田研究室の学生たち
分子を一粒动かして电気に変えるーー。
梦のような话ですが、そんな未来が近づきつつあります。実用化されれば、体温のちょっとした変化でウェアラブルデバイスを动かしたり、新しいタイプの电池を开発したりできる、と话すのが理学系研究科化学専攻の山田鉄兵教授です。

2020年5月に东京大学に着任した山田先生の専门は、电気化学。分子が异なる温度でくっついたり离れたりする反応をエネルギーに変える研究をしています。
千叶県松戸市育ちの山田先生が科学に最初に兴味を持ったきっかけは、小学校の顷、地域の図书馆で放课后に読みあさった本でした。
「両亲が共働きで、4年生になって学童保育がなくなり、それまでの游び友达と离れてしまい、地元の図书馆しか行くところがなかったんです」と振り返る山田先生。「落语全集やサム?ロイドのパズルシリーズに加えて、『科学の质问箱』シリーズを片っ端から読みました。『ホーキング、宇宙を语る』(イギリスの宇宙物理学者スティーブン?ホーキング博士着のロングセラー)も読みましたね」
将棋も好きだったと话す科学少年は、高校卒业后、东京大学に入学。物理にも兴味があったそうですが、理论がきちっとしている物理に比べて、「なぜいろいろな反応が起きるのか分からないうちに先に进んでいく感じ」な化学をもっと知りたいと思い、理学部化学科に进みました。西原寛教授(现东京理科大教授)の无机化学研究室では、これまでにない新しい物质を作り、齿线结晶解析するという作业に热中します。
新しい物质をひたすら作る
「出来たものを世の中に役立てようというよりも、新しいものを作って分子のカタチを见る、というのが一番のモチベーションでした。できた分子を确认するのが难しい。空気に触れると壊れてしまうので、空気が入らないガラス容器の中で作る。空気中に出さないで精製し、出来上がったきれいな结晶を、齿线を当てて构造解析する、というのが学生时代の研究でした」
その时作ったのはコバルト、鉄、ニッケルなどの金属に硫黄を结合させた、クラスター错体と呼ばれる物质の一种。大学院では、その错体に実用的な意味がないか触媒反応を试したり、冷やすと色が変わると知ってマイナス200度まで冷やして温度と色の変化を调べたり、といった実験を繰り返しました。
こうした気の远くなるような、そして一见「なんの目的もない」ように见える基础研究が、后に新素材の开発につながることがあります。学生时代に山田先生が作った物质も、数年后に西原先生が単层のシート状にしたところ、トポロジカル絶縁体(中身は絶縁体だが切断すると表面だけ电気を流せる金属になる物质)という、当时物理学で非常に注目されていた物质になることが分かったと话します。
山田先生は修士课程修了后、大手化学メーカー叁菱化学の研究所に就职。花形だったリチウム电池の开発に携わりますが、「アカデミアへの憧れ」を断ち切れず、共同研究を通じて知り合った九州大学の北川宏教授に声をかけられて、2年后に助手として同大学に着任しました。
九州大では、燃料电池の中の「膜」を作る研究に従事。配位高分子という、金属と有机物を并べてできるジャングルジムのような「かご」の中に水を入れると、プロトン(水素プラスイオン)が流れます。この水素イオンが流れることをプロトン伝导性と呼びますが、プロトン伝导性のある膜を作ることで燃料电池内の水素イオンを流れやすくして効率を上げるのが目的でした。基础研究の面白さに目覚めたのは、まさにこの顷でした。
研究は真似された人が伟い
「プロトン伝导性配位高分子は当时すごく注目されていて、我々の研究を中国やインドのグループが追いかけてくれたんです。研究者は皆、自分の研究を真似されることを嫌がりますが、僕は真似されるのがうれしかった。基础科学では真似された人が伟いと思います。世界に影响を与えているということですから。工学が製品で世界を豊かにする、ということなら、理学は情报で世の中を変えることだと思っています」
2015年顷からは、热化学电池という新たなフィールドに挑戦しています。日本では、本格的に研究しているグループは他になく、「本当にオリジナルな研究をしていると思う」と胸を张ります。

山田先生が研究している熱化学電池の仕組み。シクロデキストリン(水色の筒状の分子)は低温側で三ヨウ化イオン(紫色に三つ連なる分子)を取り込み、高温側で放出する。低温側で酸化反応、高温側で還元反応が促進された結果、低温側で電子が外部回路に移動し低温側に還流することから持続的に電力が得られる ©山田鉄兵(アメリカ化学会誌 に掲载)
热化学电池は、酸化还元の反応を使って电子のやり取りを「平衡」状态(化学反応の正反応と逆反応が行ったり来たりしている状态)にし、両端に温度差をつけるとイオンが低温侧に动くことから电気を取り出そうとする装置です。
山田先生の热化学电池はさらに、シクロデキストリンという轮のような形をした分子の中に叁ヨウ化物イオンを闭じ込めたり、そこから逃してバラバラにしたりすることで、その反応を促进しています。
実は、シクロデキストリンはデンプンのように糖(グルコース)の锁からできていて、グルコースが环状につながっている分子です。一般に贩売されている消臭スプレーにも使われています。この热电変换反応には、小学生の理科の実験で出てきた「ヨウ素デンプン反応」(じゃがいもにヨウ素をたらすと紫色になる反応)」が応用されているのです。
消臭剤で匂いが消えるのは、この轮っか状の物质が匂いの分子を闭じ込めるから、と山田先生は説明します。「逆にヨウ素デンプン反応で加热すると色が消えるのは、ヨウ素がデンプンから出てきてバラバラになるからです。このように、温度を上げるとホスト(=シクロデキストリン)から叁ヨウ化化合物イオンが出てくる。我々のシステムは、温度によって分子を捕まえたり离したりすることで电気を起こす、分子ロボットともいえます」
とはいえ、热化学电池で作れる电気の量はナノワットレベルで、ほんのわずか。そのため、あまり注目されていなかったのですが、最近、性能が急激に向上し、今では热化学电池を研究している研究者が世界で10グループぐらいいると话します。
热化学电池は、酸化还元反応を利用して持続的に电気を作れるので、グリーンケミストリー(环境に优しい化学)の一例です。先生が実现可能性が高いと考えているのがセンサーへの応用。高齢者や赤ちゃんに热化学电池を使ったデバイスを取付け、体温の変化で発电することで、常时心音をモニターし、万が一心音が止まったら电波で情报を飞ばすことが可能だと话します。首掛け扇风机なども、体温で动かせる日が来るかもしれません。
产业に直结する电気化学

酸化还元反応の促进により発生する电流を测定する装置
「エネルギーの化学というのは、一つの化学反応式だけで直接デバイスになる。リチウムイオン电池も、たった2つの电気化学反応を使って世界を席巻しているので、化学反応が直接产业になるという意味で电気化学はとても面白い。新しい反応を使った新しいデバイスで世界を変える、というのが大きな目标です」
これまで、知识欲に突き动かされて、兴味の赴くままに研究を続けたらここまできた、と话す山田先生。学生にも、自分の兴味を突き詰めるべきとアドバイスします。
「こっちの方向が储かりそう、と思ってその方向に进むと地狱が待っていることも多いんですよ。储かりそうな方向というのはみながそこを目指すので、竞争が炽烈になって、ほとんどの人はたいして储からない。それより、本当に自分のやりたいことをやったらいいと思います。それが结局は自分の生活を豊かにしてくれることにつながります」
そして、パンデミックの今こそ、前向きな発想をするべきだと力説します。
「アイザック?ニュートンは(17世纪の)ペストの流行で大学が2年间休校になり、田舎に帰っていたとき、リンゴが落ちるのを见て、万有引力の法则を思いついたと言われています。学生にも、君らの中からきっと新しいニュートンが出るよ、と话しています。今、世の中で皆が困っている。困っているときこそ、理系の出番だと思います」
取材?文/小竹朝子
写真/贝塚纯一