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中国の社会を内侧からえぐる エスノグラフィを通して知る现代の中国社会

掲载日:2017年3月10日

日本が昔から多大な影响を受けてきた隣の大国、中国。その现代社会が直面する问题を描き出そうと、社会の内侧に入り込んで行う観察?研究をかれこれ25年以上も続けているのが、総合文化研究科の阿古智子准教授です。

中国研究とエスノグラフィとの出会い

写真1:香港大学での学位授与式后に程介明教授と阿古准教授この写真を撮ったとき、阿古准教授は学位授与式中にまとっていたガウンは脱いでしまっていたとか。阿古准教授 提供

写真1:香港大学での学位授与式后に程介明教授と阿古准教授
この写真を撮ったとき、阿古准教授は学位授与式中にまとっていたガウンは脱いでしまっていたとか。
阿古准教授 提供

小さい顷から人间観察が好きで、テレビの旅番组をワクワクしながら観ていたという准教授。学生时代は国连机関や狈骋翱で働くことを考えていましたが、留学先の香港大学で の薫陶を受け、エスノグラフィと呼ばれる手法を用いた中国研究の道に进みました(写真1)。

エスノグラフィとは、もとは文化人类学のフィールドワークの一つ。研究者自身が现地社会に所属する内部者として役割を果たしながら観察、记述、分析して人々の生活や行动を明らかにする手法です。学校のクラスの副担任として、灌漑プロジェクトの担当者として、ローカル狈骋翱の一员として(写真2)。地域社会の构成员になって初めて见えてくる中国の姿を、当事者と第叁者という2つの视点を坚持しながら、准教授は次々と描き出してきました。

写真2:中国の农村部での调査のためにバイクにまたがる阿古准教授中国の湖北省沙洋県の农村で、自动车が入れないような未舗装の道を通らなければいけなかった际には、オートバイタクシーを利用して、调査地域に向かいました。 阿古准教授 提供

写真2:中国の农村部での调査のためにバイクにまたがる阿古准教授
中国の湖北省沙洋県の农村で、自动车が入れないような未舗装の道を通らなければいけなかった际には、オートバイタクシーを利用して、调査地域に向かいました。
阿古准教授 提供

たとえば、河南省では、経済的に立ち遅れた农村で贬滨痴キャリアが増え、エイズ村と呼ばれる地域が存在していました。手早く现金を得られる売血ビジネスを地方政府と业者が结託して促进し、不卫生な环境下の採血で感染者が続出していたのです。しかし、政府はエイズ関连の诉讼を认めようとせず、被害者は泣き寝入りせざるを得ないことがほとんど。こうした状况は、内部に身を置いて声を上げる人がいなければ、外部にはなかなか见えてこないのです。

エスノグラフィを通して见える复雑な中国社会

ただ、自由な言论が必ずしも保障されていない国で外国人研究者が现地调査を行うのは、简単ではありません。目をつけられて邪魔されることも多々あります。2002年の内モンゴル调査时には身柄を拘束され、最近も调査データが入った笔颁や携帯电话を没収されたとか。地方の役人は、批判につながる动きを警戒しているのです。

「中国人の教え子は、批判的な记载を含む论文が问题视され、就职先の大学で処罚されました。友人の中国人研究者の中には、授业を受け持たせてもらえなくなったり、図书馆に配置换えされたりした者もいます。私も、あまり深く掘り下げた调査に関わると、今后、入国できなくなるのではないかと心配になります。でも、やめようとは思いません。これも中国の现実。私はそれも含めて観察したい。中国で民主化が进まない要因の一つとして分析してやろうと思うんです」。

たとえば、「民衆の不満vs政府の弾圧」という単純な構図では、複雑な現代中国は描けない、と准教授。特に注目するのは、都市と農村を峻別し、農村から都市への流入を厳しく制限する、身分制度にも等しい戸籍制度の存在です。そこに、高い地位の人にまかせるのをよしとする儒教的な文化、共通の利害がないと団結できないという風潮などが複雑に絡み合い、格差が拡大しているのが現代の中国。インターネットの普及で市民の発言機会が増え、Pu Zhiqiang(浦志強)弁護士を筆頭に人権派知識人も奮闘しているものの、「アラブの春」のような急激な変革は起こりにくい、というのが現時点での分析です。

私はあきらめない

図1:超大国?中国のゆくえ 勃兴する「民」の表纸新着は、急速な経済成长の阴でさまざまな矛盾を抱え、引き裂かれる中国社会の格差の构造や揺れ动く言论空间、そのなかで苦闘する人々の姿に迫ることを通じて、社会変革を阻む要因を抉り出し、中国社会のゆくえを论じています。新保 敦子、阿古 智子(東京大学出版会、2016)

図1:超大国?中国のゆくえ 勃兴する「民」の表纸
新着は、急速な経済成长の阴でさまざまな矛盾を抱え、引き裂かれる中国社会の格差の构造や揺れ动く言论空间、そのなかで苦闘する人々の姿に迫ることを通じて、社会変革を阻む要因を抉り出し、中国社会のゆくえを论じています。
新保 敦子、阿古 智子(東京大学出版会、2016)

だからこそ、言论の自由と司法の独立の重要さを、研究者が発言し続けないといけないのだ、と准教授は决然と言います。しかし、中国のリアルな姿を知れば知るほど、衝撃的で根深い问题を抱える社会の现実に直面します。重苦しく、目を背けたくなる感情も否めません。

「确かにそうかもしれない。ただ、私は中国の重苦しい一面を意识的に切り取っていますが、中国の人たちって、実はそれほど悲観的ではないんですよ。日々を生きるのに必死なだけかもしれませんが、実际に彼らはたくましく暮らしています。私もあきらめるわけにはいかない」。

苦しい気持ちを认めながらも、现実から目を背けず、抑圧すら研究意欲に换えて、やるべきことをやり続ける。见た目も话しぶりも非常に柔和な印象の准教授ですが、现地で长年エスノグラフィックな研究を続けてきたことで、中国仕込みのたくましいメンタリティが、その全身にしみわたっているのです(図1)。

取材?文:高井 次郎

取材

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阿古智子准教授

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参考文献

新保 敦子、阿古 智子(东京大学出版会、2016年)

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