生涯歩き続けられる社会を目指して 地道で大规模な住民コホート调査から得た指针

幸せな老后を迎えるために、健康をどう维持し、障害をどう予防していけば良いのか。高齢化が进む日本が抱える大きな课题に、「运动器全体の问题として取り组む」という新たな切り口から挑む研究があります。高齢者が运动器疾患により要介护状态となる要因やリスクを把握するための大规模な集団追跡调査は、开始から间もなく10年。多くの人の协力で得られたデータから、「生涯歩ける社会」の実现を目指しています。
运命的な出会い
医学部附属病院22世纪医疗センターで関节疾患総合研究に携わる吉村典子特任准教授が东京大学にやってきたのは、2005年。附属病院の理事を务めていた整形外科学讲座の中村耕叁教授がロコモティブシンドローム(运动器症候群、以下「ロコモ」)という概念を提唱する準备を进めていた顷でした。

図1:ロコモティブシンドロームの概念図
ロコモティブシンドロームは、日本整形外科学会により2007年に提唱された概念で、運動器の障害のために移動機能の低下した状態を言います。進行すると要介護となるリスクが高くなります。日本整形外科学会による提唱以来の活動もあり、医学界での認知度が高まってきました。 (Locomotive syndrome pamphlet 2013, edited by Locomotive Challenge! Council, Japanese Orthopaedic Association, Tokyo, 2013.)
ロコモとは、骨や関节、筋肉、神経などの运动器の障害のために移动机能の低下をきたし、进行すると介护が必要になるリスクが高い状态をいいます(図1)。整形外科の専门分野にとらわれず运动器にかかわる分野全体ですすめ、移动机能の低下や要介护の予防につなげることが研究の目的です。「これからの高齢化社会を见据えた、新鲜で理にかなった考え方だ」。吉村特任准教授は强く共感しました。
运动器障害の予防を目的としたそれまでの临床研究は、骨粗しょう症や骨折、変形性関节症、リウマチ、肿疡、外伤などといった専门分野ごとに进められることが多く、运动器全体からの分析がほとんどありませんでした。また日本では、腰や膝に多少の痛みがあっても、歩行困难や悪化倾向がなければ病院に行かない人が多く、定期诊断でも骨や関节を详しく调べるケースは稀。疾病の频度、発生率、増悪率、合併率、それらに関连する因子、など运动器障害の基本的な疫学データが不足していました。
吉村特任准教授の専门は予防医学。地元の和歌山医科大学の公众卫生学教室で骨粗しょう症を研究する中で、运动器の障害に悩む多くの高齢者を目の当たりにしてきました。もともと内科医であったこともあり、整形外科医の中村教授とは専门が异なり面识もありませんでしたが、分野横断的に取り组むロコモの重要性、そして、地方で地道に研究を続けてきた自分の成すべきことがよく分かったのです。
予防はまず现状把握から。吉村特任准教授は现状を明らかにする手段としてコホート研究デザインを选びました。集団を対象に追跡调査を行い、疾患の有病、発生、その予后を継続的に调査する疫学调査の手法です。自らのライフワークとして取り组んできた経験がありました。「高齢者が生涯歩き続けられる社会の実现に役立てるなら」。今まで以上に大规模で地道な调査の遂行に、新たな一歩を踏み出す决意をしました。
大规模な调査の结果が语ること
ロコモのコホート研究は2005年から、東京都板橋区と、和歌山県の山間にある日高川町と漁師町の太地町で始まり、Research on Osteoporosis/osteoarthritis Against Disability、略してROADと名付けられました。「研究成果を発信する相手は、日本という国全体。結果を一般化するためには、生活スタイルの異なる都市と地方のデータをそろえれば、説得力が高まるはず」。和歌山時代の4倍となる3040人の対象者一人一人に病歴や生活習慣などを問診し、X線検査を含むさまざまな測定を行います。山村や漁村の調査では、それぞれの町に3~4カ月滞在し、毎日15人ぐらいずつ調査。これを3年、7年、10年目に繰り返し調査し、継続してデータを蓄積します。
初回调査(2005年)で、予想より多くの人がロコモの范畴に入ることが分かりました。レントゲン写真の分析で、调査対象者の约5割が膝、そして7割以上が腰に、変形性関节症を患っていました。骨粗しょう症の数字を加えると、40歳以上の人口の约3分の2にあたる4700万人が、将来的にロコモが原因で支援が必要になる可能性があることになります。従来の试算値より、はるかに大きな数字でした(図2)。
2回目以降の継続的な追跡调査で明らかになるのは、発症率と疾患関连因子。健康状态からロコモになったり、ロコモから要介护状态になったりする患者の割合と、関连する要因などです。他地域の関连研究のデータも合わせると、全国で年间111万人が要支援?要介护状态に移行していること、やせと肥満のいずれもが要介护状态の移行に関连していること、运动能力の指标である歩行速度や握力がその危険因子となりうることなどが分かりました。
メタボリックシンドロームや认知症などの要介护となる他の要因とロコモに関连する复数の要因は互いに诱発し合うことも分かってきました。たとえば、高血圧と膝関节症はお互いに関连し合っていることがわかりました。つまり高血圧があれば膝関节症発生のリスクが上がり、逆に膝関节症があれば高血圧発生のリスクが上がります(図3)。それぞれの要因に因果関係があり、复雑な状况ですが、「関连要因を一つずつほぐしていくことで、疾病の连锁を防ぎ、要介护の原因を効率的に予防することを目指しています」と吉村特任准教授は话します。
地域との信頼関係が生んだ成果
![図3:运动器の障害とメタボリックシンドロームとの関连を示す概念図。矢印が結ぶ2つの疾患や症状には、一方を有していると他方が発生しやすくなるという関係がある。さまざまな要因が複雑に絡み合って、互いの疾病を誘発し合っている。(Yoshimura N, et al: Mod Rheumatol. 2014 Nov 20:1-11. [Epub ahead of print] より) 図3:运动器の障害とメタボリックシンドロームとの関连を示す概念図。矢印が結ぶ2つの疾患や症状には、一方を有していると他方が発生しやすくなるという関係がある。さまざまな要因が複雑に絡み合って、互いの疾病を誘発し合っている。(Yoshimura N, et al: Mod Rheumatol. 2014 Nov 20:1-11. [Epub ahead of print] より)](/content/400028644.jpg)
図3:运动器の障害とメタボリックシンドロームとの関连を示す概念図
矢印が結ぶ2つの疾患や症状には、一方を有していると他方が発生しやすくなるという関係がある。さまざまな要因が複雑に絡み合って、互いの疾病を誘発し合っている。(Yoshimura N, et al: Mod Rheumatol. 2014 Nov 20:1-11. [Epub ahead of print] より)
贵重なデータと成果が得られた背景には、调査対象者や地域との深い関係がありました。継続と追跡がカギとなるコホート研究。初回に调査した3040人の82%が第2回调査にも参加。太地町に限れば、この数字は96%まで上がります。転出や高齢化によって协力が难しくなる人もいる中で、惊异的な数字です。
この太地町と吉村特任准教授の縁は1993年にまでさかのぼります。町役场から骨粗しょう症検诊と健康指导を依頼されて以来、町の人たちの健康づくりに一役买いながら调査研究を进めています。かつてなく大规模な调査となった今回も町役场をはじめ町民の强力なバックアップがありました。山间の日高川町の调査も地元の継続的な协力があり、人口の流出入が多く追跡调査が难しい都市部は东京都健康长寿医疗センター研究所との共同作业で多くの人からデータを集めています。地元の协力は息の长いコホート研究に不可欠です。
だからこそ、吉村特任准教授は「结果をすべて、协力者に还元すること」を心がけています。调査结果に基づいた健康教室を现地で繰り返し开くばかりでなく、调査対象者からの个别の健康相谈に応じ、重大な疾患の予兆を见つけて他科の医师を绍介したこともありました(写真1)。「高齢者の方が大好きだから」。駆け出しの内科医だったころから多くの高齢者と関わり、励まされながら自身が成长してきたからこそ、活动にも热が入ります。
今后の展望
吉村特任准教授が今后、特に重要になると考えるのは、国や地方自治体といった行政への働きかけ。たとえば、定期健康诊断で腰と膝のレントゲン写真を撮る制度や仕组みがあれば、障害の早期予防につながるでしょう。费用や手间などのデメリットもあるからこそ、それを凌驾するだけの社会的な価値があることを示したいのです。
今后は4回目の调査(2015年~)を行ってデータを详しく解析していくとともに、调査対象者を拡大する计画です。2015年には初回调査から10年目となるコホート研究。初年度と今の、たとえば同じ50歳代の対象者のデータを比べることで、世代による相违点も见えるようになってくるはずです。
コホート研究は継続する时间が长くなるほど価値が上がっていきます。そう信じてゆかりのある和歌山と、研究の最先端の东京を行き来する吉村特任准教授。「コホート研究は研究者が死ぬまで続くものですから、コホート研究を始めたら长生きしないといけないんです」。东京大学へ来て10年。和歌山医科大学时代から贯くライフワークの道(搁翱础顿)の歩みは、さらに加速しようとしています。
取材?文:谷 明洋
取材协力

吉村典子 特任准教授
医学部附属病院22世纪医疗センター