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暗黒エネルギー 宇宙の二大ミステリー

掲载日:2014年10月16日

1999年、二つの研究グループが「約70億年前から宇宙の膨張スピードが加速している」という観測結果を発表しました。ビックバンで始まった宇宙膨張は、物質同士の引力によってやがて勢いを失うはずです。この観測事実の不可解さを、東京大学カブリ数物连携宇宙研究机构の高田昌広教授は「真上に投げたボールが戻ってくるどころか、勢いを増してどんどん空高く飛んで行くような奇妙な現象」と例えます。この加速膨張の原因とされるのが、暗黒エネルギーです。

一般相対性理論のアインシュタイン方程式

図1:一般相対性理论のアインシュタイン方程式
左辺の骋&尘耻;&苍耻;は、时空の几何を表すアインシュタインテンソルと呼ばれる量で、宇宙に适用すると、宇宙の膨张の程度を记述します。右辺は、宇宙が内包する全物质?エネルギーの分布です。この関係式が宇宙膨张の歴史の各时间(瞬间)に成立します。アインシュタインは、左辺に宇宙定数を加えて定常宇宙解(静的な宇宙)を得ようとしましたが、宇宙定数を右辺に移すと、宇宙定数はエネルギーの一成分であるとみなせます。宇宙定数の状态が时间で変化する场合を含めて一般的に扱う场合、この新たな一成分を「暗黒エネルギー」と呼びます。
© 2014 東京大学

暗黒エネルギーが理论研究に初めて登场したのは、宇宙が膨张していることすら谁も知らなかった20世纪初头のことです。アルバート?アインシュタインの重力理论の一般相対性理论では、『宇宙の大きさの进化』は『宇宙にどれだけの物质とエネルギーがあるか』に等しいという方程式(図1)が登场します。宇宙は静的なもの、つまり宇宙の大きさは过去、现在、未来永劫変わらないと考えたアインシュタインは、重力の引力に対抗する斥力を生む宇宙定数という项を加え、静的な宇宙になるよう方程式を変更してしまいました。この项はアインシュタインの宇宙定数と呼ばれ、理论の数学的な美しさを损なうものであり、1929年にエドウィン?ハッブルが宇宙膨张を発见すると、アインシュタインはすぐに宇宙定数を撤回しました。

皮肉なことに、アインシュタインが后に「生涯最大の过ち」と呼んだ宇宙定数が、加速膨张を起こす斥力の源として21世纪に復活しました。この宇宙定数を一般化したものが暗黒エネルギーです。方程式が示すその性质は、宇宙膨张とともに宇宙の空间が広がるほど、その全エネルギーがどんどん増大するという、これまでの物理学の常识では説明のつかないものでした。

现在、観测によって暗黒エネルギーの物理的性质を绞り込もうという计画が、世界中で进んでいます。注目するのは、宇宙の物质の大半を占める暗黒物质です。重力で互いに引き合う性质を持つ暗黒物质は物质を引き离す暗黒エネルギーとは対极の存在です。暗黒物质は空间で积分した质量(エネルギー)が保存するので、宇宙が小さい顷はその密度が大きく、つまり暗黒物质の力が优势です。宇宙が大きくなるにつれ、暗黒物质の密度は减少し、暗黒エネルギーの力が増してきたと考えられています。「70亿年前から加速膨张に転じたということは、この顷に力の逆転があったはずです」と高田教授。暗黒物质と暗黒エネルギーの力比べの歴史を観测により明らかにすることができれば、暗黒エネルギーの性质に迫ることができるのです(図2)。

138億年前に始まった宇宙の膨張と、暗黒物質と暗黒エネルギーの力比べの歴史

図2:138亿年前に始まった宇宙の膨张と、暗黒物质と暗黒エネルギーの力比べの歴史
1)宇宙の膨张とともに暗黒エネルギーがどんどんと増大し、やがて暗黒エネルギーの力が暗黒物质の力よりも优势となり、未来の宇宙が加速膨张を続ける场合。2)未来に何らかの理由で优势であった暗黒エネルギーが消灭し、暗黒物质の力が暗黒エネルギーよりも优势となり、宇宙が减速膨张に転じ、やがて収缩し、一点に溃れる场合。
© 2014 東京大学

力比べの様子を知るには、远方から近傍、过去から现在までの宇宙のスナップショットを撮影して宇宙の地図を作り、物质の分布がどう変化してきたかを调べなければなりません。暗黒物质は目に见えませんが、重力で光の経路が曲がる重力レンズという効果から、その分布を復元できます。重力レンズによる微小な歪みを捉える精密さで、かつ暗黒エネルギーによる膨张の影响が分かる程の夜空の広い领域を、70亿年前の远方の宇宙まで観测するという、壮大な「宇宙の国势调査」が必要です。

この世界の潮流に先駆け、日本の技術が結集したすばる望远镜の超広視野主焦点カメラHyper Suprime-Cam(HSC)が2014年3月に本格始動しました(図3)。高解像度で広視野と深宇宙を両立できる世界初の観測装置です。「宇宙の国勢調査」のために日本?台湾?米国から集まった約200名の研究者が、今後5年間かけて宇宙の地図を作ります。一方、欧米では10年後に向けてさらに大型の観測計画が進んでおり、これから宇宙の大規模?精密探査時代が始まろうとしています。

重さ3.3t、高さ約3mのHSCの全体像

図3:重さ3.3迟、高さ约3尘の贬厂颁の全体像。
国立天文台/HSC collaboration

贬厂颁の研究チームをリードする高田教授は「暗黒エネルギーの予想外の性质が分かるかもしれません。また、そもそもシナリオの前提になっている一般相対性理论が间违っている、つまり重力の性质の理解が间违っているという可能性もあり得ます。その场合は、予想と违う地図になるでしょう。大変エキサイティングな研究です」と言います。5年后に得られる宇宙の地図には、研究者の想像を越える姿が描かれているかもしれません。宇宙を支配する暗黒エネルギーの研究は、私たちの宇宙観を検証する研究でもあるのです。

取材?文:南崎梓

取材协力

高田昌広教授

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