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光触媒の新世界 市场との対话が生んだブレークスルー

掲载日:2014年6月10日

酸化チタン光触媒を応用した製品を、日常生活でよく见かけるようになりました。光のエネルギーで水を分解するというごく単纯な反応は、惊くほど多くの応用を生み出し、学问?产业の両面で大きな花を咲かせています。东京大学の本多健一名誉教授と藤嶋昭特别栄誉教授から始まった研究は、工学系研究科の桥本和仁教授に引き継がれ、なお発展を続けています。

本多?藤嶋効果の発见

酸化チタン(罢颈翱2)に光を照射すると、そのエネルギーによって水が水素と酸素に分解される――。当时大学院生であった藤嶋昭氏が、本多健一助教授の指导の下、実験中偶然にこの作用を见出したのが、酸化チタン光触媒の半世纪に亘る物语の始まりです。

図1:酸化チタン光触媒による活性酸素の生成
© 2014 佐藤健太郎

「光触媒」とは、光のエネルギーによって、化学反応を促进する物质全体を指します。そのうち、酸化チタンとその関连物质の研究は他を圧して进み、酸化チタンは唯一产业的に用いられている光触媒です。

この発见は1972年に狈补迟耻谤别誌に発表され、今では発见者の名を取って「本多?藤嶋効果」と呼ばれます。白ペンキなど、身近に用いられる酸化チタンにこうした作用があったことは、当时大きな惊きをもって迎えられました。藤嶋氏の学位审査では、「こんな怪しげなことを発表していいのか」という声さえ上がったといいます。

しかし藤嶋博士は、この光触媒の可能性を谁よりも强く感じており、学生の身で自ら特许を取得していました。工学系研究科応用化学専攻の桥本和仁教授はこれについて、「藤嶋先生が最初から产业という方向を强く意识していたことは、まさに画期的でした」と语ります。

光触媒が再び脚光を浴びたのは、第二次石油危机の1980年顷でした。有机物の入った水に酸化チタン粉末をいれ、光を当てるだけで有机物が分解し、また水から水素ガスが得られるため、重要なエネルギー源として期待されたのです。ただしこの酸化チタン光触媒は、太阳光エネルギーのうち紫外线のみを用いるものであるため、大量のエネルギーを取り出すには至りませんでした。

酸化チタンの作用

図2:酸化チタン光触媒でコーティングされたガラス(左)と普通のガラス(右)
罢翱罢翱株式会社提供

酸化チタンの作用は、まず酸化チタンに光が当たって电子が励起(エネルギーの高い状态)され、この电子が他の分子に结合してこれを还元、电子が励起された跡の正电荷を持った「穴」(正孔)が分子から电子を夺って酸化する过程です。空気中や水中でこの反応を行うと、酸素が电子と、水分子が正孔と反応するといずれも活性酸素を生じ、これはアルコールや植物の叶さらにゴキブリまでも酸化し、二酸化炭素にまでも分解する作用を持ちます(図1)。

そこでこの反応性を利用して、汚染水や大気の浄化を行おうという研究が1980年代の中顷から热心に行われましたが、大量の水や大気を処理することはできず、研究は行き詰まりました。

転机

転机が訪れたのは、1989年のことでした。藤嶋研究室に着任した橋本講師(当時)が、東大の黄ばんだトイレの便器を眺めていた時、酸化チタン光触媒がゴキブリを分解できるなら、黄ばみの原因菌も分解できるのではないかとひらめいたのです。「エネルギーならば大量に発生させないと意味がありませんが、汚れ落としならば微量の物質を分解できるだけで十分意味がある。これは、大きな発想の転換でした」と橋本教授は振り返ります。

早速、つてをたどって罢翱罢翱株式会社(当时:东陶机器株式会社)との共同研究が开始されましたが、当初は苦労もありました。「当时はまだ、大学が公司と组んで研究することに、非常に抵抗が强かった时代。まして便器の黄ばみの研究を东大で行うとはいえず、土日にこっそり集まって実験をしたものです」。

図3:超亲水性の原理

図3:超亲水性の原理
© 2014 佐藤健太郎

この共同研究の中で见つかったのが「超亲水性」という现象でした。酸化チタン光触媒をコーティングした表面は、极めて水になじみやすくなり、水をかけても薄い膜となって流れてゆきます(図2)。これは学术的に新规な现象であり、1997年やはり狈补迟耻谤别誌に掲载されました。

これは、光触媒の効果によって油汚れが分解されること、また酸化チタンの酸素が光照射によって抜け落ち、これが水分子と反応して水酸基を作ることにより、表面と水分のなじみがよくなることによります。これによって汚れは洗い流され、长时间自己浄化効果が持続します(図3)。

酸化チタン光触媒によるコーティングは、米国テキサス州ダラスのドームスタジアムの屋根や六本木の东京ミッドタウンの吹き抜けガラス天井、など、世界中で生かされています。最近では、东京駅八重洲口のグランルーフにも採用されました(図4)。「东京の新しい颜といえる场所に、自分たちの生んだものが使われたのはやはり嬉しいですね」と、桥本教授は笑颜を见せます。

可视光利用という悲愿

図4:酸化チタン光触媒のコーティングにより白さが长持ちする东京駅のグランルーフ
© 2014 東京大学

これまでの酸化チタン光触媒の难点は、太阳光线のうち紫外线のエネルギーしか使えないため、屋外など强い紫外线の当たる场所でしか、その性能が発挥できないという点です。可视光线のエネルギーが利用できれば、酸化チタン光触媒の応用にとって革命となります。

2007年、桥本教授を中心に関连公司が参加してできた新エネルギー?产业技术総合开発机构(狈贰顿翱)プロジェクトは、この点に取り组んで大きな成果を挙げました。このプロジェクトでは、可视光による活性を従来の10倍以上に高めるという、极めて野心的な目标が掲げられました。光の弱い室内で酸化チタン光触媒を使うためには、これだけの活性が必要という调査结果から导き出された数字であり、最初からマーケットを强く意识した目标设定でした。

「ある意味でこれは、科学者として、してはいけない约束だったかもしれない。ブレークスルーは狙って生み出せるものではないのに、それをすると言ってしまったのだから」。

それまでは、エネルギーの低い可视光でも反応できるよう、酸化チタンに窒素などを加え(ドープ)、正孔を生じさせやすくするという考え方が主流でした。しかしこの方法では、できる正孔の酸化力が低く、その移动度(周りの电子が正孔に落ち込み、见かけ上正孔が移动していく速度)も小さくなるため、结局反応効率も上がりませんでした。酸化チタンの高い酸化力を保持したまま、可视光の利用を可能にするには、小手先の改善ではなく、全く新しい原理が必要でした。

同时进行で市场を目指す

図5:铜助触媒を用いた酸化チタン光触媒による反応
© 2014 橋本和仁

その解决策は、酸化チタンの表面に、鉄あるいは铜イオンから成る「助触媒」を付着させる方法でした。こうすると、酸化チタンから助触媒へ电子が直接励起される「光诱起界面电子移动」が起き、エネルギーの低い可视光でも十分利用が可能になります。また、この助触媒は2つの电子を受け取って酸素を还元でき、この段阶の反応効率をも大いに高めます。この2つの効果の合わせ技により、従来の10倍以上の反応効率を実现したのです(図5)。

「当初はクロムを用いてこの现象を见つけましたが、产业応用を考えると毒性のあるクロムは使えない。様々な実験データの中から类推し、詰めていって鉄や铜にたどり着きました。ノイズの中から必要な情报を拾い出すのも、研究者の重要な能力です」と桥本教授は言います。

このプロジェクトの特笔すべき点は、その応用展开の速さです。基础研究と同时进行で、公司でのパイロット生产が进められ、1年で応用の见通しが、3年で产业展开が図られました。长い道のりを歩んできた酸化チタン光触媒は、桥本教授の强いリーダーシップのもと、ここに来て加速度的な进展を遂げています。

「新しい光触媒は、紫外线を含まない蛍光灯の光を照射するだけで、感染性ウイルスを大幅に不活化させます。すでに空港や病院などで検証试験が行われ、优れた抗菌?脱臭作用が确认されています。2014年中にこの新しい光触媒を利用したフィルムやペンキ、ガラスなどが製品化され市场に出る予定です」。

今后この新しい光触媒は、室内の挥発性有机化合物やアレルゲンの除去、壁纸や床材、空気清浄机などへの応用が期待されています。「市场との対话」から生まれた新たな光触媒は、今后も产学连携の良きモデルとなりそうです。

取材?文:佐藤健太郎(サイエンスライター)

取材协力

桥本和仁教授

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