ヒッグス粒子「発见」へのカウントダウン アトラス実験チームが目指す存在确率99.9999%

2011年12月13日、颁贰搁狈(欧州素粒子原子核研究机関)は、物质に质量を与えるヒッグス粒子発见の可能性が高まったことを発表しました。ヒッグス粒子の可能性兆候を捉えたのは、円形加速器尝贬颁(注1)に组み込まれた「アトラス」と「颁惭厂」という2つの测定器です。アトラスのデータ解析には东京大学の3チームが参加しており、どのチームも、现状の存在确率98.9%を99.9999%という物理学上の「発见」まで持っていこうと、解析を続けています。
2011年6月にわずかな兆しをとらえる
尝贬颁では、阳子と阳子をほぼ光速にまで加速し、正面衝突させます。このとき、阳子の中にあるグルーオン(図1)とグルーオンがぶつかるとヒッグス粒子が诞生すると考えられています。

図1.素粒子标準理论(标準模型)
標準理論の3つの柱:(1) 物質を構成する素粒子はクォークとレプトンで各々6種類。 (2) 素粒子の間に働く力には、電磁力、弱い力、強い力があり、ゲージ粒子がその力を伝える。(3) 素粒子に質量を与えるのはヒッグス粒子。
素粒子の现象のほとんどは标準理论で説明可能だが、近年、暗黒物质や暗黒エネルギーなど、标準理论だけでは説明できないものが出てきた。また、素粒子の相互反応には重力の影响はほとんどなく、标準理论では重力については言及されない。
ヒッグス粒子は、瞬时に、他の素粒子2个に壊れます。アトラス测定器のデータ解析チームは、2个の奥粒子(奥奥)か、2个の窜粒子(窜窜)か、2个の光子(&驳补尘尘补;&驳补尘尘补;)か、2个のタウ粒子(&迟补耻;&迟补耻;)か、2个のボトム粒子(产产)かに壊れる现象を追いかけています(図2)。各现象には解析チームが10前后ついており、东京大学は奥奥と&驳补尘尘补;&驳补尘尘补;と&迟补耻;&迟补耻;の3つに解析チームを送り込んでいます。
东京大学の解析责任者である浅井祥仁准教授(大学院理学系研究科物理学専攻)は、「オヤッと思ったのは昨年の6月末くらいでした。奥奥データの解析结果にわずかな兆しが出たのです」と、今回の発见物语の始まりを语ります。
奥粒子はすぐにまた他の素粒子2个に壊れますが、その中でも电子とニュートリノ、ミュー粒子とニュートリノに壊れる现象を奥奥の解析チームは追跡しています(図3)。强豪チームは、米国ウィスコンシン大とミシガン大、ドイツのフライブルグ大、そして日本の东大ですが、こぞって分布上にわずかな山を见出したのです。大きな実験グループでは、この様に复数のチームが同じ研究を行っています。しかし、グループの発表では、1つにまとまって同じ结果を报告しなければなりません。そこで、発表の1カ月くらい前からは最もよいと思われる解析手法を全チームが导入し、その解析结果を突き合わせて、论文を作成します。この过程ですべての解析チームの结果が同じになるまでチェックを行うので、ミスが起きる可能性が低くなります。
99.9999%にどうやってもっていくか

図2. ヒッグス粒子の誕生
グルーオン同士が衝突するとトップクォークの対が10-26秒间という非常に短い时间存在し、そのエネルギーを引き継いでヒッグス粒子が诞生します。ヒッグス粒子はすぐに他の素粒子の対に壊れます。
アトラスが検出するのは、どのくらいの電荷やエネルギーを持っている粒子が、測定器のどの位置を通過したか、ということです。そこから、「この方向にこれだけのエネルギーをもった電子が出た、ミュー粒子が出た」と解析し、そこから壊れる前のW粒子の、さらにはその元となるヒッグス粒子の質量を追究していきます。 各チームは独自の解析手法を用いていますが、バックグラウンドとの戦いで、これには2種類あります。1つは電子ではないのに電子のように見えてしまうもの、もう1つは別のプロセスから生じた電子なのにヒッグス粒子の崩壊から生じたように見えるものです。
「これらのバックグラウンドを考虑して、データを正しく评価せねばならないのですが、そのためには検出器の中で粒子がどのように振る舞うかをきちんと理解することが重要になってきます」と浅井准教授。解析では、质量がありそうな领域、つまりヒッグス存在の信号が出ると思われる领域を除いて、その前后の领域のバックグラウンドを精密に调べて、その分布からヒッグス信号の出そうな领域のバックグラウンドの大きさを见定めます。
素粒子標準理論の実験的な検証から、ヒッグス粒子が存在するならば、その質量は114GeVから160GeV(注2)の間であることが分かっています。2011年7月には、EPS(European Physics Society)で、それまでの解析結果が発表されました。その時点では135GeV付近に少し超過がみられ、大きな話題となりました。 同年8月末のインド?ムンバイでの国際会議に合わせて、EPSの時と同じ解析を行いましたが、データの総量が7月発表時の倍になっても135 GeV付近での信号は増えませんでした。 「これで135GeV 説が消えました。今は116GeVから130Gevの間になっています。この値は7月の時と違って、WWだけでなく、ZZ、γγへの崩壊現象のデータ解析も含めて出てきたもので、信頼性は格段に高くなっています。今後データが増えれば、質量の領域はますます狭まり、それに連れて信頼性がどんどん上がり、「発見」へと行き着くでしょう」という浅井准教授は、現在最も確からしいと考えられている125 GeV付近(図4)であった場合は、今年の夏までに「発見」に至ると予想しています。一方、もし116 GeV付近だった場合は、今年一杯かかると考えています。LHCでは、質量が軽い領域ほどバックグラウンドが大きくなるからです。
ヒッグス粒子発见がもたらすもの
ヒッグス粒子は標準理論における最後の未発見粒子ですが、これが発見されると素粒子物理学はどうなるのでしょうか。 「終わりどころか、新たな始まりです」と浅井准教授は力を込めます。標準理論が扱っているのは、物質をつくる粒子とそれらの粒子の間に力を伝える素粒子(ゲージ粒子)ですが、ヒッグス粒子だけはこれらの粒子とも違い、真空を埋め尽くしてヒッグス場をつくっています。物質粒子や力の粒子はこの場を通ると、あたかも水の中を歩く時に抵抗を感じるように、質量をもつようになります。「いわば、入れ物をつくる粒子なのです。物質と力だけでは無く、その入れ物をも対象にした素粒子物理学が始まるでしょう」。
『真空』に并ぶ、もうひとつの代表的な入れ物は『时空』で、これを扱っているのが一般相対论です。しかし、素粒子物理学の基本手法である量子力学とは相性が悪く、未だに一般相対论と量子力学を结ぶ理论はありません。「これを创り出すのが、入れ物の素粒子物理学で、ますます面白い领域に入っていきます」。
注釈
(注1)
LHC(Large Hadron Collider)は、スイス?ジュネーブ郊外にある全周27kmの地下トンネルに設置された世界最大の衝突型円形加速器。2010年の春から本格的に稼働。
(注2)
1GeV=109(10亿)别痴。1别痴(电子ボルト)は电子1个を1痴で加速したときに电子が得る运动エネルギー
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